良書との出会い②
(ちなみに、①は以前紹介した『永遠のゼロ』です)
『在中日本人108人の それでも私たちが中国に住む理由』(在中日本人108人プロジェクト編)
私は、北京で3年間、外交官として仕事もさせてもらったし、米国の大学院に2年間留学した時ですら専攻は「中国学」でした。いろんな場面で、よく聞かれます。「伊佐さんは、中国のこと、好きなんですね。」でもその時、いつもこう答えます。「中国の事は、大好きです!」「でも同時に、大嫌いです!!」
中国と長くかかわり、あるいは長く住んでいる人たちの感覚も、おそらく同じじゃないでしょうか。一人の人間に、良い所もあれば悪い所もあるように、一つの国(あるいは国民性)にも、その個性が良く出るときもあれば、悪く出る時もあります。
本書は、その良い所も悪い所も含めて、中国と長くかかわってきた日本人たちの「証言」が、ひたすらに飾られることなく詰め込まれています。北京や上海だけでなく、できるだけ多地域から。そして、その仕事や活躍の場も、できるだけ多領域にわたって。それぞれの、様々な人生がつづられています。
「砂漠地帯のオアシスの街、日本人と中国人の両親の間に生まれた赤ちゃん。日本の武術家が中国の師兄弟と練功に励む姿。中国人の患者がわざわざ訪れる日本人医師の診療室。日本語で熱心にスピーチする中国人の大学生たち。日本の絵本を喜ぶ中国の子供たち。」
こうした「証言」の積み重ねを読み進むうちに、決して一面的でない「中国」の姿が見えてくるのではないでしょうか。
2012年の尖閣国有化を機に起こったデモは、一部が暴徒化し、日本のショッピングセンターを強奪、また大使館や日本料理店に投石しました。しかし同時に、メチャクチャに破壊された日系スーパーを驚くほど短期間で復旧させたのは、一人の退職者も出さなかった「中国人従業員」たちでした。反日デモの行進に何気なく参加する中国人も多い中、日本人の友人、知人、同僚を心配して気遣いや、メッセージを送る中国人もたくさんいました。反日をあおる中国メディアがある一方で、デモや破壊活動の裏に秘められた、中国民衆の「本当の」怒りの「ほこ先」を指摘した、勇気ある中国人記者もいました。
日本の報道だけを見ていると、中国がのっぺりとした、「一面的」な国に見えてしまいます。「怖く」て「汚く」て、そして「危険」な国。そんな国に、なぜ14万人以上の日本人が住んでいるんでしょうか。会社に無理やり派遣されて?好きになった人が中国人だったから仕方なく?単なる興味本位?
中国を自分の目で見ている人たちの「証言」は、報道では決して見えてこない「生の中国」を見せてくれます。私の友人も何人か登場していますし、本書のプロジェクトを進めたのも、私の友人たちです。本書が、皆さんの「中国」理解の一つの材料になればと思っています。